肛門疾患にはさまざまな種類がある
肛門の疾患には、内痔核・内痔核かん頓・外痔核・裂肛・痔ろう・肛門周囲膿瘍・肛門ポリープ・尖圭コンジローマなど、さまざまな種類があります。その中でも、三大疾患といわれる痔核(いぼ痔)・裂肛(切れ痔)・痔ろうが、全体の9割強を占めます。
この中で最も多いのは痔核の患者さまで、全体の6~6.5割ほどにもなります。残りの約3割が、切れ痔と痔ろうの患者さまです。
気になる症状が出たら、自己判断せずに肛門科へ!
お尻に何らかの異変が出ると痔だと思いがちですが、他の肛門疾患の可能性もあります。仮に痔だとしても、どの痔かはご自身では判断が難しいこともあります。
肛門疾患は早めの治療がとても大切ですので、お尻に何らかの異変を感じたらお早目に専門医にご相談ください。
肛門疾患について詳しくご紹介する前に、まずは肛門の仕組みについてご説明します。
肛門の仕組み
肛門は直腸とつながっている
肛門は直腸とつながった構造をしており、その境界部はお尻の穴から少し内側に入った所にあります。
歯状線を境に、皮膚感覚が異なる
肛門と直腸のつなぎ目には歯状線と呼ばれるギザギザした境界線があります。歯状線より上は痛みの感覚がないため、うっ血したりこぶなどができたりしても何も感じませんが、歯状線より下は皮膚と同じような組織なので、この部分に傷やできものができると痛みを感じます。
歯状線はギザギザとくぼんでおり、このくぼみには粘液を出すはたらきを持つ肛門腺とよばれる腺があります。
肛門は2つの筋肉に囲まれている
肛門は、2つの筋肉によって囲まれています。1つは、自分の意思でコントロールできない「内肛門括約筋」、もう1つは自分の意思でコントロールできる「外肛門括約筋」です。
肛門は普段は閉じていますが、排便の際は、これらの筋肉がゆるんで開く仕組みになっています。
ひとくちに痔といっても、種類によって治療法は異なる
肛門疾患のうち、痔について、痔の種類とそれぞれの特徴や症状、治療法をご説明します。ひとくちに痔といっても何種類もあり、それぞれ治療法も異なります。まずは専門医の診断を受け、ご自身の症状に合った治療を受けましょう。
内痔核
症状が進むと、脱肛するようになる
内痔核は、下痢や便秘が長く続いたり、肛門に負担がかかることで直腸や肛門にうっ血が生じ、直腸の静脈が腫れてコブ(痔核)ができた状態です。いわゆる「いぼ痔」です。発症する方の男女差は特にありませんが、妊娠・出産をきっかけに症状が出る女性も多いです。
内痔核
痔核は歯状線より上の直腸内にできるので、初期は痛みはありません。ですが、症状が進むと排便時に痔核が肛門の外へ出てくる(脱肛する)ようになります。そのうち、手で押し込まないと痔核が中に戻らなくなり、次第に常に脱肛している状態になります。
- ■ 症状
- 初期は、出血や違和感が主症状で、出血の程度は、トイレットペーパーにつく程度です。排便時に痔核が肛門の外へ出てくるようになると、痛みや残便感が出てきます。
- 排便時に限らず脱肛するようになると、下着が汚れたり、肛門周りにかゆみも出てきます。出血の量も多く、真っ赤な血が便器いっぱいに出るようになります。
- ■ 治療法
- 初期は塗り薬・注入軟膏での治療となります。脱肛するようになると、ジオン注射や結紮切除法(手術)で治します。
内痔核かん頓
飛び出した痔核が腫れあがり、激痛をともなう
内痔核かん頓とは、肛門の外に飛び出した痔核が肛門括約筋に締め付けられて腫れ上がってしまい、元に戻すことができなくなった状態をいいます。
内痔核かん頓
- ■ 症状
- 激しい痛みや出血があり、分泌液が出ます。激しい下痢や便秘の後、過度の飲酒の後などに発症します。
- ■ 治療法
- お薬で炎症をおさえて様子をみます。痛みがひどい場合は、手術をするケースもあります。手術では、局所麻酔や硬膜外麻酔をして括約筋の緊張を取り、脱出した内痔核を肛門内に戻します。
外痔核
肛門の入り口付近にできる痔核
外痔核とは、主に排便時の強いいきみが原因で血管が切れ、肛門の入り口付近がうっ血し、しこり(痔核)となってしまう痔です。外痔核も、内痔核と同じように「いぼ痔」と呼ばれます。
外痔核
内痔核が歯状線より上の直腸内にできるのに対して、外痔核は歯状線より下の、肛門の皮膚の部分にできます。触ると自分でも確認することができます。
- ■ 症状
- 基本的に、出血や痛みなどの症状はなく、肛門部にしこりができるだけです。ただし、痔核の中に血栓ができると腫れて激しく痛みます(血栓性外痔核)。
- ■ 治療法
- ほとんどの場合、お薬のみの治療です。切除はせず、自然に消退していくのを待ちます。痛みがひどい場合は手術をすることもあります。
裂肛(切れ痔)
便秘がちな女性に多くみられる
裂肛とは、いわゆる切れ痔のことで、かたい便が出るときに肛門に傷(裂肛)ができてしまった痔です。冷えやホルモンバランスの影響で便秘になりやすい女性に多くみられます。中には下痢が原因となるケースもあります。
裂肛(切れ痔)
裂肛になると、傷の痛みで排便を我慢するようになり、さらに便秘になって便がかたくなるため、傷が治りにくくなります。こうして傷が慢性化すると、炎症を起こして潰瘍になり、ポリープができることもあります。肛門に潰瘍やポリープができると肛門が狭くなり(肛門狭窄)さらに便が出にくい状態になります。
- ■ 症状
- 排便時や排便後に、ズキズキとした痛みを感じます。出血は紙に少しつく程度です。慢性化すると、排便後も強い痛みが長時間続きます。
- ■ 治療法
- 軟膏を塗って傷を治します。症状が進み肛門狭窄している場合は、注射で筋肉を弛緩させたり、遊離皮膚弁移植術という手術を行い狭窄を改善させます。肛門ポリープができている場合は、ポリープを切除します。
痔ろう・肛門周囲膿瘍
唯一、治すには根治手術が必要な痔
痔ろうの前段階として、まず肛門周囲膿瘍ができます。肛門周囲膿瘍は、歯状線のくぼみに細菌が入って肛門腺に炎症が起き、膿がたまる疾患です。
皮膚を破って膿が排出された後、直腸と肛門の皮膚がトンネル状につながってしまった状態が痔ろうです。
肛門周囲膿瘍、痔ろうは男性に多くみられ、抵抗力が落ちているときに、下痢などで細菌が入り込むことで起こります。
肛門周囲膿瘍
痔ろう
- ■ 症状
- 肛門周囲膿瘍は、痛みが日に日に悪化し、肛門部が腫れて熱を伴うこともあります。膿が出て痔ろうになると、いったんは落ち着きますが、炎症を起こすとまた肛門の周りが腫れて、ズキズキと痛んで膿が出ます。
- 膿が出きったら症状はおさまりますが、治ったわけではなく、下痢で細菌が入るとまた症状を繰り返します。
- ■ 治療法
- 肛門周囲腫瘍は、その場で切開をして膿を出すケースが多いです(切開排膿術)。痔ろうは、ほかの痔とは異なり軟膏などの薬では治らないため、手術が必要です。
- 手術には、痔ろうと一部の筋肉を切除する方法と筋肉を温存し痔ろうのみをくりぬく方法があります。
その他の肛門疾患について、特徴や症状、治療法をご説明します。
肛門ポリープ
良性で、がん化する心配はない
肛門ポリープとは、裂肛(切れ痔)や内痔核、外痔核が原因となり慢性的に肛門部分に炎症が起こることで、歯状線の近くにできるポリープです。大腸ポリープと違い、がん化する心配はありません。
肛門ポリープ
- ■ 症状
- 小さいうちは特に症状はありません。大きくなると肛門の外へ飛び出してきます。その際にポリープに傷ができると、痛みや出血があります。
- ■ 治療法
- ポリープが大きくなって違和感が出てきたり、炎症を起こしてかゆみが出る場合や、肛門ポリープがあるために痔が治りにくい場合などは、手術で切除します。
尖圭コンジローマ
性病的側面が強い疾患
尖圭コンジローマは、ウイルス感染により肛門周囲や性器にイボができる疾患です。性病的側面が強い病気です。尖圭コンジローマのイボは痔核とはまったく違うものですが、いぼ痔と勘違いしてしまう方もいます。
尖圭コンジローマ
- ■ 症状
- 悪化するとイボがカリフラワー状に盛り上がります。かゆみや痛みが出ることもあります。
- ■ 治療法
- 超音波メスで、イボを焼灼します。
痔のような症状は、大腸の疾患でもみられることがあります。痔と間違いやすい大腸の疾患についてご紹介します。
大腸がん
大腸がんは痔ともっとも間違いやすい病気
大腸がんは、痔に似た症状が出るため、痔だと思って来院される方が多くいらっしゃいます。
大腸がんの症状
- 便に血が混じる(紙に血が付く、血便が出る)
- 便秘や下痢を繰り返す
- 残便感がある
大腸がんには直腸がんと結腸がんがあり、直腸がん特有の症状に、トイレに行っても便が少ししか出ずしばらくするとまた便意をもよおすという症状があります。
痔と大腸がんの出血の違い
痔と大腸がんの症状で決定的に違うのは、出血の量です。痔は出血量が多いですが、大腸がんは便に血がつく程度です。しかし、出血量が多いからといって安心はできず、大きな痔核や脱肛と大腸がんを併発しているケースもあります。
とくに直腸からの出血は、血が明るい赤色をしているため痔と間違いやすいです。少しでもご不安があれば、迷わずご来院ください。
大腸ポリープ
痔の検査で偶然見つかるケースも多い
大腸ポリープは大腸の粘膜にできるポリープで、痔の検査で偶然見つかることも多い病気です。
ポリープは腫瘍性のものとそれ以外(非腫瘍性)に分けられ、腫瘍性ポリープはがんになる可能性があるため切除する必要があります。
大腸ポリープの症状
自覚症状はほとんどありません。まれに血便が出たり、便が細くなったり、便に粘液のようなものが付着することがあります。
クローン病
痔ろうを引き起こすこともある原因不明の疾患
クローン病は、小腸や大腸をはじめ、口から肛門までの消化管に炎症が起き、潰瘍やびらんができる原因不明の疾患です。10~20代と若い年代での発症が多いです。
クローン病になると肛門に病変が起きやすくなり、肛門周囲膿瘍や痔ろうができることもあります。クローン病が原因で痔ろうになると手術をしても治りにくく、それがきっかけでクローン病が発覚するケースもあります。
クローン病の症状
下痢や腹痛、発熱、肛門病変、食欲不振、体重減少、全身倦怠感などが主な症状です。
放置すると、重大な病気の発見が遅れてしまうかもしれません
お尻に何らかの異変があったとき、当てはまる痔の症状があると「痔かな?」と思いがちですが、自己判断は禁物です。診察を受けずに放置していると、重大な病気の発見が遅れてしまうかもしれません。
どんな病気でも、早期に発見できれば治療も軽く済み、治せる可能性が非常に高いです。今、何らかの症状が出ているという方は一日も早く肛門科をご受診ください。
肛門科を受診するのが恥ずかしいという方へ
院内の雰囲気や診療の流れは、一般内科と同じです
肛門科を初めて受診される方は、どのような場所かご不安があるかと思いますが、肛門科の院内の雰囲気や診療の流れは、皆さまがご存知の一般内科と何ら変わりありません。
診察時にどのような格好をするのかも心配なところですが、診察は横向きの体制で行いますので、服を脱いだり、足を開いていただくということもありません。
患者さまが恥ずかしさを感じることのないよう配慮しておりますので、リラックスしてご来院いただけたら幸いです。
検査がご不安な方へ
当院の大腸内視鏡検査は痛み知らずです!
診察の結果、何らかの大腸疾患が疑われる場合には、大腸の内視鏡検査をおすすめしております。
大腸内視鏡検査は痛みが怖いという方もいらっしゃると思いますが、当院で採用している原則無送気(注水)法という検査方法は、患者さまの痛みや違和感を最小限におさえて検査を行うことができます。
また、大腸内視鏡検査は、医師の腕に左右される部分もありますが、当院ではすべての検査を専門医である院長が担当いたしします。院長は年間約2,000件の内視鏡検査を行うベテランですので、安心してお任せください。